旧山形村の馬事情
2009年 10月 29日
昭和30年代に入るまで、馬は日本各地で、人間とともに一生懸命働いていました。
その当時は馬のいない生活など、考えられなかった人たちも多かったのではないかと思います。
人間のために働き、人間の生活を良くするために懸命に尽くしてきた馬たちは、人間の生活が良くなったことで消えていきました。なんだか申し訳なくなってしまいます。
さて、一口に「働く」と言っても、その仕事は本当に多様で、地域によって様々あります。また、馬の飼育方法も、その地域地域で、気候条件などのちがいから、それぞれのやり方があります。
昔は日本のどこにでもいた・・・でもどこでも同じ生活じゃない・・・じゃぁこの地域では???
これからの観光の面白さってそんなところにあると思います。どこにでもあるようでどこにでもない。きっと馬の事情だってそう。ここ、旧山形村ではいったい人々と馬はどのように結びついていたのでしょうか。
そんなお話が聞きたくて、今日は地元のあるおじいちゃんにお話をうかがいに行ってきました。
現在80歳のこの方。実はお父さんの代から精米所を営んでおり、車を購入するまでは、馬車によってお米を運んでいたそうなんです。精米するためのお米を馬車で取りに行き、精米したらまた届ける。また、供出米の倉庫が温湯にあったそうで、その運搬も馬車で行っていたのだそうです。
今日、1953年の『山形村勢要覧』というものお借りすることができたのですが、これによると、旧山形村にはこの年、全部で283頭もの馬がいるんです。ちなみに牛は26頭。約1300戸に対してなので、単純に考えれば5軒に1軒は馬を所有していたということになります。
では、そんなにたくさんの馬たち、どんな仕事をしていたかと言いますと、やっぱり基本的には農耕です。耕運機などが入る前は、農作業に馬はなくてはならない存在でした。その力は人10人分くらいに相当するそう!さらに、馬からは良質の堆肥が取れます。そんな点でも農家になくてはならない存在なのです。
そして、旧山形村は半分以上が山間地。山仕事を生業とする地域も多いです。そうすると、山からの木の切り出しや、薪炭の運び出し、炭の運搬など、山仕事にも馬が欠かせませんでした。この山仕事は、車が普及してきてからも、車が入れないような山道であったために、だいぶ遅くまで馬が活躍していたのだといいます。
また、駄賃付けといって、荷物を馬車につけて運ぶ職業の方も、各集落に二人ずつくらいはいたのだそうです。米やりんご、野菜、山の方の人たちは炭もつけて、町へと運びます。
ちなみに、冒頭の写真は、戦後、開拓で家を持った私のおじいちゃんとおばあちゃんのものです。馬車屋さんに頼んで、2頭の馬で開拓を行っています。そして、上の写真は、酪農をはじめたおじいちゃん達が牛乳を町まで運ぶために使っていた道産子です。リヤカーを馬車のようにひかせています。
この写真を見せながら、今回はお話をうかがったのですが、農家の方々が使っていた農耕馬は、この道産子のような大きさではあったようですが、道産子ではなかっただろうと言います。馬は、博労(馬喰)さんが持ってくるものだったので、どこからどんな種類の馬が来ていたのかは分からないそうです。
曲がり屋で有名な南部と違って、津軽では内馬屋として、完全に人の生活スペースの横に馬がいたのだそうです。曲がり屋よりもよっぽど近くに馬がいたのです(笑
ただ、旧山形村では馬を生産していた人というのはほとんどなく、みんな博労さんに頼んで馬を入手していたそうです。
そして、さすが温泉郷!なんと馬のための温泉があったのだそうです!ほとんどの地域がそうだと思いますが、基本的に馬は仕事が終わると、川で汗を流してもらってから帰ります。その川に、ちょうど温泉の排水が流れるようになっていたようで、そのお湯をためて、馬のための温泉として使っていたとか。落合では馬の背たけまでくるような「馬の湯」というけっこう本格的な温泉にしてあったようです。素敵ですよね。
また、大正2年からは温湯~黒石間の乗合馬車がスタートしています。運賃は1里10銭。この馬車は、湯治客や観光客が利用していたのだそうです。温湯~黒石間は約8キロ。馬車で1時間半、歩いても2時間ほどの道のりなので、地元の人たちはたいていは歩いて行ったのだとか。ですから、この地域では馬車はリッチな乗り物だったわけです。
素敵だなぁと思うのが、当時の人たちが決して馬車に「速さ」を求めていないこと。歩いたのと30分しか変わらないんです。今、私たちが馬車に「のんびりとした時間」を求めるように、当時だって何か特別な時間を求めていたのかもしれない、そう思うとなんだか嬉しいし、安心します。
もっともっとローカルで、面白い話がたくさん聞けています。近いうちに旧山形村のきちんとした紹介もしながら、またご紹介したいと思います。お楽しみに!
# by momiji-basya | 2009-10-29 23:16 | 山形地区